The Empty Chair

先週のスティング先生の生歌の余韻がまだじわーーーんと残るなか、一曲だけ、ライブで聴きたかったものの今回のセットリストに入っておらずちょっぴり残念に思った曲があります。
今年のアカデミー賞で主題歌賞にノミネートされた”The Empty Chair”という楽曲で、授賞式でも先生がステージで歌っていましたね。”Jim: The James Foley Story”という、シリアでの取材中にISISに拘束され斬首されたアメリカ人ジャーナリストのドキュメンタリー映画の主題歌。

「主題歌のオファーを受けてこの映画を観たあと、胸にこみあげるものがありすぎて、自分にはこの映画にふさわしい歌は作れないので断るつもりだった。でも、家に帰って感謝祭の食卓を囲んでいるときにふと思ったんだ。もし自分の家族がどこかで囚われの身になっていてこの場にいなかったとしたら、それでもそのひとのための椅子をこの食卓に用意するだろうな、と。からっぽの椅子、というメタファーを思いついたおかげでこの歌をつくることができた」という趣旨の話を先生がいろんなところでしていて、去年アルバムが出たとき、そういうバックグラウンドを知らないで最初に聴いたときですら、美しいメロディと優しい歌声に相反するさびしく切ない歌詞に胸が痛くなりました。

ざっくり訳すと、「目を閉じると心に浮かぶのは、はるか遠くにある我が家の食卓。冷たい部屋に閉じ込められ、日々を数えて一条の光を見る。だから、椅子を空けておくことをあきらめないでいて。心を強く保てる日も、口もきけないほど弱っている日もあるけれど、家に帰りつくことに思いを巡らせている。冬が来て、君は窓の外の暗闇をただ見つめている。ぼくはいつだって食事に遅れるだろう。どうにかそこに戻るから、ぼくの椅子は空けておいて」という内容で、繰り返される”And somehow I’ll be there”というフレーズがはかなく輝く。

この映像が↑パリのバタクラン劇場で収録されているのがまた泣けてしまう。2015年11月のパリ同時多発テロでコンサート中に銃撃事件があったあの劇場の、事件発生から一年後の再スタートがスティング先生のこのライブ。先生の弦をつまびく様やメロディに乗せたひとつひとつの言葉に、理不尽な暴力で命を落としたあらゆるひとたちへの祈りが伝わってくるような気がします。最後の"Vive le Bataclan!"(バタクラン万歳!)っていうエールもぐっと来る。

今やすっかり落ち着いて賢人オーラ全開なスティング先生の、ポリス時代の映像をたまに見ると、年相応にやんちゃで尖った感じが微笑ましい。