不能説的・秘密 (台北・西門町にて)

marik2007-09-20


今までに観たことのない味わいの映画だった。ベタな恋愛模様に微笑し、頭文字Dの朴訥高校生を思わせる可愛さ演出の数々に、わあ、ジェイによるジェイのためのジェイたんカワユス映画だなあ、とキュンキュンしながら見ていると、突然、映画の色合いがものすごい勢いで変容するという。あの映画やこの映画が発想のヒントになっているのだろうな、というのは若干透けて見えるのだけれど、見終わったあとの印象はものすごくオリジナルな、ジェイの奇才っぷりがしっかり発揮された怪作に仕上がっていた。

「言えない秘密」と冠されているだけあって、物語の途中である秘密が判明するのだけど、その秘密がわかる前と後では、ある人物の印象がまったく違うものになってしまうのが、非常に心地よい驚きだった。そういう複雑さを見事に演じきった役者もすごいし、その繊細な演出の絶妙さはやはり監督独自の感性の賜物なのだと思いました。もー、ズルズル泣いてしまったよ。

この映画の成功は、黄秋生さんとルンメイちゃんの参加もやはり大きい。秋生さんが出ているとどんな映画でもシュッと締まるものだけれど、ここでも実に楽しげに、余裕の演技で息子をサポート。さすが。しかしジェイと秋生さんが一緒に家の中にいると、お父さんがいつ一升瓶片手にベロンベロンになってしまうのだろうかとハラハラしてしまった(違う映画です)。ルンメイちゃんは、「藍色夏恋」で見たときは、スッキリ顔のさっぱりした爽やか少女だなー、という印象だったのに、いつのまにかほのかな妖艶さを隠し持った女優になっていた。ちょっと影のあるたたずまいとクラシカルな上品さを持つ彼女以外では、この役は成立しなかったと思う。

衝撃的だったのが、ジェイのMVによく出てくる、顔のパーツが中心よりの、ごっつい風貌の男性がジェイの友だち役で出ていて、エンドロールでその人の名が黄俊郎であると判明したことでした。「逆鱗」や「将軍」などの渋い歌詞を書いた人が、あの人だったとは!ひょえーーー。宇豪(ピアノ王子!)や弾頭やメイクの人(プロの俳優かよ!というくらいの熱演だった)、張傑(なんか、リアルだった)など、おなじみのジェイと愉快な仲間たちシリーズの人たちがいっぱい出ているのに、ガンホンは出演していないのがナゾ。ガンホンに合いそうな役は、あの物語に無さそうなのはたしかなので、お友達人事に甘んじないところに、監督の本気を感じました。

見終わったあとも映画の中に心が取り残されてしょうがなかった。李屏賓が撮った上質な映像と、ジェイ・チョウさんのこれまでのキャリアや才能が結実した美しい音楽(とくに、ピアノ曲!天才や)がかもしだす調和美も印象的。やっぱり映画って総合芸術だなあと実感。スターが音楽の片手間に撮った映画、という域を超えた吸引力のある作品だと思いました。

台湾で映画を見るのは初めてだったので、字幕なし音声のみだったら2割、もしも中文字幕がついていたら5割理解できればいいや、と覚悟して映画館に行ったら、英語の字幕がついていたのがブラボー。台湾で上映されている台湾の映画なのに、英語字幕がついているなんて素晴らしすぎる。香港やシンガポールに準じているのかな?

この映画、何度でも観たいし日本でも大画面で観たい!、という願いをこめて、「不能説的秘密」を日本で観たい!ブログ様にTBします。