ラスト、コーション (色・戒)

泣いたり笑ったりといったわかりやすい感情に訴えかけてくるのではなく、心の奥のほうにじんわりと余韻を残す、すばらしい映画だった。こころと情欲と自分が置かれている立場のせめぎ合いの切なさは、「ブロークバック・マウンテン」に相通じるものがあるような。李安のあの温厚な笑顔の下には一体どれだけ複雑な愛情の源が隠れているのだろうと、つくづく不思議。

色欲にご用心、という題名(こういう解釈で合っているのかな?)を体言している湯唯の存在感が秀逸。ちょっとした表情の変化や目線で、切実さや覚悟が伝わってくるので、目が離せない。赤いネイルや口紅、クラシカルなコートが素敵だった。

トニーさん、なんて非道い男!と最初は思ったものの、苦悩の男を演じさせたらさすが東洋一。この人は本当にこういう人で、今たまたま映画のスクリーンのなかでその人生の一部分を見せているだけなのだろうなあ、と勘違いしてしまうほどにリアル。一箇所だけ笑いそうになったのが、トニーのものすごい跳躍力。危機管理能力に優れていた。
王力宏は、理想に燃える白いシャツのフレッシュ青年役がぴったり。彼と湯唯の関係性がわたしは結構ツボでした。が、しかし、ああいうタイプの男性こそ、関わると大変ですよね、という戒めも。銭嘉樂が香港映画的なタフさ(というかなんというか、とにかく観てみて!)を見せていたのがナイス。