大統領選挙とバニラウォッカ クリスティン・ゴア

アメリカのどこかの書評を読んでいたら、この小説について「ブリジット・ジョーンズ、ワシントンDCへ行く」というようなことが書いてあったのだけど、まさしく、まさしく。20代〜30代の女性が恋に仕事にワアワア大騒ぎする欧米の小説は私の大好物なのだけど、これは今までに読んだ中でも白眉。

上院議員の政策コンサルタントを務めているサミーは、医療保険制度の改革案を議会で通すべく奮闘中。日夜仕事に明け暮れるなか、同じ政党の他の議員のスタッフと恋に落ちたり、大統領選挙がからんできたり、ラジバンダリ。というのが大筋で、この手の主人公の定番である、ちょっぴりドジで妄想癖がある女の子☆という微笑ましいレベルではなく、頭がよすぎるがゆえに突出してしまう真性の変人っぷりがクラクラするくらい可笑しい。過剰なまでに高い危機管理の意識や、飼っている魚との関係性、ブラックベリーに毎日表示される何かしらの記念日(そのどれもが、ものすごくマニアック)を祝う習性、学生の飲み会でやるようなゲームを実家に帰った際に親子3人でやってお母さんノリノリ、というあたりがめちゃくちゃウケました。知性とシュールさが入り混じった独特のおかしみを持つモノローグが、岸本佐知子さんのエッセイを読んでいるときのモゾモゾする楽しさとすごく似てるー、似てるー、と読みながら何度も思いました。

サミーの奇矯さに対してボスが時に若干ひきながらも、彼女の分析力が優れていること、自分ができる限りのことをしっかり遂行しようと身を惜しまずに取り組んでいて結果を出せる人間であるということを、ちゃんと分かっていてその実力を認めているところや、サミーの倫理観や責任感にブレがないところが、読んでいてとても気持ちがいい。

クリスティン・ゴアという名前と、表紙に書かれた「政治恋愛小説版『不都合な真実』」という惹句でピンと来る通り、著者はアル・ゴアの娘さん。議会で法案を通すときのかけひきや大統領選キャンペーンの裏側などの描写が、合衆国の政治の中枢で育った作者ならではの説得力。彼女のユーモアの感覚が、もう、ちょっと、たまらないくらい大好きだわ、と思ったらサタデーナイトライブの脚本でエミー賞を獲ったことがあるとのことで、納得。
あと、これを読んだあとは、大統領選のニュースを見ると候補者よりも背後のスタッフのほうに注目するようになってしまった。みんなものすごい高揚感と日々おわりの無い緊張の中で頑張っているんだろうなあ、と心から応援したいきもちに。

"Sammy's Hill"というシンプルな原題(Capitol Hill は連邦議会議事堂なので、それにかけているのではないかと。そして続編のタイトルは"Sammy's House"なので、あの場所にかけているのではないかと)を、旬な大統領選と、バニラウォッカという異質な単語の組み合わせでヤヤっ?と惹きつける日本語タイトルに変換したセンスが、とっても素晴らしい。