らくだの涙

モンゴル南部の砂漠。自分の子供に愛情を持てない母ラクダに馬頭琴&歌を聴かせる話。機嫌や調子の悪い動物を歌や楽器でなだめたりするのは、遊牧民の間は割と一般的なことらしい。

カメラはラクダの持ち主である遊牧民一家の生活を淡々と追うのだけど、朝起きてやるべき仕事があって、夜にその日の出来事を話す家族がいる。ただそれだけのことを静かに映しているだけなのに、とても暖かな幸福のにおいがする。大自然と共に暮らす素朴な生活=善、大都会の物があふれた生活=悪という自虐的で陳腐な感情ではなく、この世に溢れかえる無数の幸せな生き方の一つの例として心に残った。しみじみと、良い映像だったなあ。あと、洋服や日用品の色使いがとても綺麗。

馬頭琴の名手を呼ぶために一家の子供達二人がラクダに乗って都会に行く場面は、妙にスケールのでかいはじめてのおつかい。お兄ちゃん(10〜12歳くらい?)は将来日本の角界に入りそうな顔つきで落ち着いた物腰。巨人の高橋似の弟(6〜8歳)は普通のやんちゃっ子なのだけど、モンゴル民謡を歌わせるとめちゃくちゃ上手くて驚いた。

白くてふかふかの子ラクダが問答無用に愛らしくて、「かーわーいーいー」と心の中で身悶えながら見ていた。お母さんに足蹴にされてなんとも言えない声で泣くのが魂焦がされます。母さんラクダに涙がキラリ☆の場面は奇跡を見た思いだけど、家族の皆さんの反応がサバサバしていて素敵。この映画ほんと好き。

ラクダの名前が「インゲン・テメー」であることが最後に判明し、劇中の彼女の凄みある態度(度重なる威嚇、軽い蹴り等)にぴったりの響きなので笑った。