美しい人

わたしがおすぎだったらよかったのになあ。そしたら、「『美しい人』、とにかく見なさいっ」と叫びながら、みんなの背中をバシバシ叩いて回ることができるのに(超迷惑)。こんなに見事に人生が描かれている映画は久々に観た気がする。

ワンカットの長回しで、10分ちょっとの短編が9本、9人の主人公。原題は"9 Lives"。劇中の台詞にも出てくるけど、猫は九つの命を持つというやつですね。状況説明もなにも無く、ただ彼女たちの人生の十数分を切り取っただけなのに、その人の生活や本質がぐいぐい伝わってきました。

1本1本が脈絡がなさそうでいて、ところどころ見覚えのある登場人物が出てくるところが面白い。いろんな人の台詞に、"connected"という単語が出てきたのが印象的だった。アトランダムに描かれた物語のようでいて、さりげなくつながっている物語、静かだけど力強く描かれた人と人とのつながり、というようなニュアンスを象徴しているのかな、と勝手に分析。

美しい人 9lives (X文庫スペシャル)どの物語もすっきりとしたオチで終わらないで、あとは皆様のご想像におまかせしますという勢いでぷつりと途切れる感じが心地よい。そして、九つ目の、ダコタちゃんとグレン・クローズのエピソードのラストで心をグワシっと掴まれて、言いようのない場所に感情が取り残されたまま映画が終ってしまった。素晴らしい。家に帰ってくる途中、あのエピソードに描かれたこと、描かれていなかったことに思いを巡らせながら、夜道でじんわり涙ぐんでしまった。深い、深い余韻。

同じ監督の「彼女を見ればわかること」も大好きだったなあと思いつつ、今映画のHPを見たら、ガルシア・マルケスの息子だったんだ!知らなかった!いや知ってたかな?どうだったっけ。シンプルだけど味わい深い、非常に好みの作品を撮る要注目監督だわ。HPにくわしいあらすじが載っているけど、見る前に読まないで良かった。説明不足の画面をあれこれ自分で想像をめぐらせながら観るのが、とても楽しかったです。共感できるエピソードもできないエピソードもあったけれど、とにかく誰の人生のどんな瞬間も、物語になりうるのだと思いました。小説版も読んでみよー。