冬の欧州ひとり旅 四日目 ポルトガル

marik2006-12-29

リスボン市内に3箇所あるケーブルカーのうち1線だけ初日に乗ったので、残りの2路線にも乗ってみよう、と朝から乗り場に行ってみると、そのどちらもことごとく閉鎖中という快調なスタート。連日の肩透かし。早くも目的を見失ってしまい適当にそぞろ歩いていると、カステラ屋の袋を持った日本人を目撃。長崎っ子としては、食べんわけにはいかんバイ。日本人が経営するお菓子やさんで提供されたカステラは、はちみつのまろやかな風味が口内に広がるしあわせの味でした。

市電の28番の路線が面白い、とガイドブックに書いてあったので素直に乗ってみる。すごいわよ。狭い坂道も気にせずゴーロゴーロと走り抜ける黄色い電車は、聞きしにまさる迫力。一見無秩序そうでいても、単線部分の待ち合わせはきちんとしている(当たり前か)。

坂道をぐわんぐわん曲がりながら、やがて見覚えのある高台の広場に。『7月24日通りのクリスマス』のラストで、中谷さんたちが電車を降りたところだった。わたしの大沢たかおはどこにいるのだろう。そういえば前日に7月24日通りを市電で通ったけど、普通の大きな幹線道路でした。長崎でいうと、松ヶ枝付近の道路っぽい雰囲気。「7月24日通り」を読んだとき、真っ先に思い浮かべたのが松ヶ枝あたりのその風景だったんだけど、吉田修一はあの小説を書いた時点ではリスボンには行った事がなく、現地の様子を想像で書いたらしいので、なかなかすごいことだよなあと思いました。リスボンってもっともっと長崎っぽいかと思っていたけれど、意外と故郷のことはあまり思い出さなかった。

市電はさらに上へ上へ。終点で降りて展望台らしき場所へ行ってみると、赤い屋根だらけのリスボン市内が見渡せてなかなかの絶景。再度反対方向へ行く28番に乗り、ガイドブックに「ここで降りるべし」と記されたポイントで従順に下車。素敵な教会にちょっと立ち寄り、再度逆方向の28番に乗車。気にいった乗り物にしつこく乗り続けるのは私の悪い癖だと思う。また同じ展望台がある停留所まで乗り、今度は今来た道を歩いて戻る。ようするにヒマなのであった。横道に入ったりしながら、時が止まったかのような街並みの中をホゲーっとぶらぶらぶらぶら。なんとなく歩いていると上記の美紀様の広場にたどりついたので、コーヒーを飲みながら街を一望。となりの席から漂う煙草の煙に、無性にタバコが吸いたくなる。一時は喫煙していたものの、今ではすっかり嫌煙家の私としたことが、どうしたことか。開放感かしら。

さらに歩いていると、昼ごはんを食べていないことを思い出し(すでに3時)、そこらへんの食堂で白身魚フリットの定食をいただく。淡白ながら美味。ぐんと元気になって、テージョ川沿いの車道に沿ってそぞろ歩き。初日にも乗った、唯一稼動しているケーブルカーに乗って丘の上の通りへ。サン・ロケ教会という、天正少年使節が滞在していた教会に行ってみた。坂の上にある素朴な外観の教会の中には、黄金にきらめく祭壇や、壮麗な天井画。天正の世に長崎からリスボンまで2年以上かけてやってきた少年たちの目に、これらのものはどれだけ眩く映ったことだろう。それはきっとパライソ(天国)そのものの光景だったのでは。としばし夢想。

またまたまた28番に乗って、また展望台へ。夕日を見るぜよ!と張り切っていたら、着くころには沈んでいた。歩いて中心部まで戻って、H&Mで少なくともあと半年は着ないであろうチューブトップのワンピースを購入。ホテルの近くの食堂で、サーモンの炭火焼きをオーダー。永遠とも思える時間が流れ、ようやく運ばれてきたサーモンは限りなく美味。ワインのハーフボトル(なぜか行く先々の店で、グラスワインという概念がない)を飲み干しつつ幸せな夕餉。さくらんぼのお酒の立ち飲み屋でまたしてもコップ酒を買って帰った。前日のお店よりも、さらにまろやかな味でおいしかったデス。