冬の欧州ひとり旅 三日目 ポルトガル

marik2006-12-28


ユーラシア大陸最西端、ロカ岬へ行くの巻。

ホテルの近くにある駅から電車が出ているので行ってみたところ、入り口すらわからない。前日に駅舎の前を何度か通ったものの、妙にひっそりとした存在感のない建物なのでヘンだな、と思っていたところだった。地球の歩き方には、2006年6月まで改修のため閉鎖、と書いてあったけれどいくら誤差があるにしても半年経ってるし・・・と途方に暮れていると、近くに観光案内所を発見。「シントラ(ロカ岬へ行くバスが出る街)へ行きたいんだけど、ロシオ駅は閉まってるの?」と聞いてみたら、「うん、まだ工事中だよ」とのこと。別の国鉄駅への行きかたを教えてもらって、地下鉄でとぼとぼと向かう。

駅の窓口で「シントラ行き、一枚ください」というポルトガル語を発するだけで舞い上がってしまい、「6.2ユーロです」と言われたのに「62ユーロ」だと勘違いして、わわわ意外と高い、と猛烈に焦りながら70ユーロを差し出すと、係員があたたかい笑顔で10ユーロ札だけ受け取っておつりをくれた。

さあ、世界の車窓からリスボン編や!と電車に乗り込むと、いずれの窓もただ汚れているだけなのか傷ついているのか、透明度はかぎりなくゼロに近く窓の外がほとんど見えない。チャチャンチャンチャンチャチャーひゅーーんって、あのテーマソングが尻すぼみに消えていくようなかんじで50分ほど電車に静かに揺られ、シントラ到着。ロカ岬行きのバスの出発まで1時間ほどあるので、街を散策しようと、地図も見ずに適当な方向にぶらぶら歩き。しばらくすると、ファンシーな建物が先の方に見えてきた。ガイドブックを見ると、王宮とのこと。白くて丸っこいフォルムの建物がとてもかわいらしい。山沿いの道を、冬の木々の香りを吸いつつ歩くのはとても気持ちがよかった。なんとなく、箱根っぽい雰囲気。王宮まで行って、しばらくじっと景色を見て、またゆっくり駅に向かって歩いた。以上でシントラ観光終了。

ロカ岬行きのバスは、普通の路線バス。ここからどちらへ?というような山道でおばあちゃんが乗ったり降りたりするのが興味深い。山や畑や家や、おだやかな光景をながめながら40分ほど乗っていると、海が、大西洋が出現。わびしげなバス停がある、西の果てに降り立った。スコーンと抜けた、はい、ここから先は大西洋しかありませんよ、というあっさりとした空間に、ポルトガルの詩人カモンイスの詩の一節、「ここに地終わり、海始まる」と刻まれた石碑がぽつんと立っている。学生時代に宮本輝の『ここに地終わり、海始まる』を読んで、ああ、ポルトガル行きたいなあ、ロカ岬行きたいなあ、と焦がれていた場所に、今、立っているのだね・・・としばし感慨にふける。そして風が強い。

寒さと風の強さに心が折れ、一軒だけあるみやげ物や兼レストランへ。日本でも愛飲している猫のラベルの微発泡ワインとスープで水分摂取祭り。この時、携帯で感想書いてこの日記に送ったのに、写真しか反映されていなくて後にがっくりするのであった。もちろんたいしたことは書いてないけどね。岬の先端に立っていると片平なぎさが出てきて自首を説得されそう、とかそんなこと。

ユーラシア大陸って、ここからずっとずっと東に広がって、九龍半島なんかにも続いているんだなあ、と思うと不思議なかんじ。そこにいたるまでには、ものすごい種類の言葉と文化があって、場所によっては戦争なんかもしていて、ひとつの大陸の上で気が遠くなるほどに多種多様な生活が営まれていることが、とてもふしぎ。というようなことをとりとめなく考えつつ、また風に吹かれて岬を散歩。風情のあるさびしさが癖になりそうな、味のある場所でした。

来たときと同じ道をバスで戻るも、あれえ、こんなに激しい道だったっけ?というくらい、曲がりくねった山道を猛スピードで駆け抜けるバス。車1台分くらいの車幅の道でSUVとすれ違うときにもスピードはゆるまず、勢いあまって路肩の土の山に軽くぶつかったらしく、バスを止めて降りてなにやら車体を確認する運転手。ちょっと肩を落として戻ってきて、反省して出発、と思いきや、またバリバリ飛ばす。確実に懲りていない。くねくね&スピードという組み合わせにほどなく気分が悪くなってきた。でもこの感じ、なんか知ってる・・・『頭文字D』だ!iPodから流れているのはいつだってジェイの歌なのだけど、ここで「飄移」を選曲。これが景色と最高にマッチして、あら不思議、ポルトガルの田舎の山道が、香港映画の1シーンに早変わり!

帰りの電車の中で、あら、せっかく大陸の最西端まで行ったのだから、西に陽が落ちるのを見届ければよかったのに、と気づきました。世界のあらゆる場所で夕陽を見るのをライフワークにしているつもりだったのに、これまたうっかりウッカリ!でも陽が沈んだあとにあの山道を暴走バスに乗るのは、肝が冷えてあと三歳は老け込むに違いないよ、と自分を慰める。

リスボンに戻って晩御飯。ホテルのそばにあるお店のウィンドウで、鶏の丸焼きが炭火の上でぐるぐる回っているのが気になっていたので入店。こんなに食べられるかなあ、と躊躇しつつも鶏のロースト半羽分をオーダー。もうね、これがね、今まで旅先で食べたご飯の中でダントツ一位の美味、というほどの絶品料理。チキンの表面はカリっとしていて軽い塩味で、中はふっくらジューシー。ほんのりかかったレモン果汁とのハーモニーは天国への階段(勝手に上るがいい)。お店の人が、お好みでチリをどうぞ、と持ってきたラー油的なスパイスをかけてみると、さらにメリハリのある味に。食肉のよろこびを再確認。どれくらい美味しいかというと、子どものころに生まれて初めてKFCのチキンを食べたときくらいの感動(嗚呼、昭和の子供)。ビールを飲みながら夢中で完食。正直、一羽まるごとでも食べられた。デザートは素朴なプリン。

非常に満足して店を出て、Ginja(さくらんぼを漬け込んだお酒)の立ち飲み屋へ。にわとり半羽を軽くたいらげ、酒の入ったカップ片手に夜道をひとりで徘徊する女。自分がまだ嫁に行か(け?)ない理由が、ほんの少し分かった気がしたYO。Ginjaは、オカンが漬けた果実酒、という感じの素朴なおいしさ。度数は結構高そう。