February Flowers/Fan Wu

はじめて親元を離れて大学に入学したばかりのMingは、お勉強ができて、本の虫で、自分の殻にこもりがちで、無垢で純粋ながら頑固というか一本気というか、そんなかんじの17歳の生真面目なお嬢さん。文革で農村に下放されている両親のもとで育ち、彼らのついえた夢なども背負っているような。ある日彼女が女子寮の屋上で出会ったのはMiao Yuanという名の、雲南省少数民族出身の24歳。Miao Yuanは派手好きで常に男の影を漂わせている、享楽的な女性。正反対のふたりが仲良しになり、友情や愛情や憎しみの狭間をグラグラ揺れ、やがてMingは18歳の誕生日を迎えます、という心の旅のお話。
90年代の広州を舞台にしていて、文革後の街の勢いや、人々の倫理観や資本主義に対する感情といったものが文のはしばしに出てくるのが興味深い。資本主義の刺激を受け、長く閉ざされていた世界から変容する国の様子と、10代の頑なな少女が20代の女性と知り合い、彼女に対する感情のゆらぎや経験を通して大人の女性に変わる過程が重なっているようにも思えました。

Mingのおぼこさに驚かされ続けるなかで、「チュウしたら子どもができちゃうよ」と言う友だちのことを笑いながら、そんなことで子どもができるわけないじゃない、男女がいっしょに寝たら妊娠するのよ。でもどうして一緒に眠るだけで子どもができるのかしら?と彼女が心の中で考えているくだり(大学生同士の会話)には度肝を抜かれました。よごれつちまった大人であるところのわたしもまた、Miao YuanとおなじくMingのなかに自分が置き忘れてきた純粋さを見出してちょっと切なくなってみたり。

この作者もイーユン・リーと同じく、文革後の中国で教育を受けたのちに米国へ留学し、自国を舞台にした話を英語で書く自由を得たひとり。シンプルながらも繊細で美しい表現が多く、うっとりしました。芥川賞にノミネートされている方といい、母国語以外の言語で小説を書いて高い評価を受けるひとって本当にすごい。作家としての卓越した才能と英語力をもちあわせている村上春樹氏でさえ「自分が英語で小説を書けるとは思わない」というようなことを何かで書いているのを読んだ記憶があるので、ことさら尊敬します。