ノルウェイの森

陳英雄(トラン・アン・ユン)が監督して李屏賓(リー・ピンビン)がカメラを回し、松山キュンが村上春樹の作品の主人公を演じるなんて、もうそれだけで十分幸せな映画だった。映像がとにかく目に麗しく、李屏賓が撮る松山くんの一挙手一投足や深い緑色の景色はいつまでもどれだけ見ていても見飽きない気がした。

松山くんのワタナベっぷりが素晴らしい。キング・オブ・ワタナベ。『ノルウェイの森』って、10代、20代、30代で読んだときにそれぞれにまったく違う印象を受けた作品で、30代になって読むと、ワタナベったらなんてピュアっ子なんだろう!と、彼の孤独も虚しさも愛もなにもかも、なんとも青くまっすぐに感じられて味わい深いなあと思ったのだけど、その複雑な純粋さやぼんやり感を見事に体現していた。とくに大学入学後に初めて直子と再会するときの、直子を発見して近づいていく場面での、生後三ヶ月くらいの赤子なみに澄んだ瞳にギュンときた。そして玉山鉄二の永沢さんが美しすぎる!二人が並んでいるシーンはのきなみ眼福。

それにしても直子が・・・直子だけはどうにも・・・。役者としての能力がとても高いのはわかるのだけど、品性や脆弱さは熱意と演技力だけでは補えないものなのだと実感。なにかのインタビューで『1Q84』の青豆さんを演じてみたいと凛子タンが言っていた記憶があるのだけど、もう、これ以上、村上ワールドのヒロイン像をだいなしにするのは勘弁してほしい。

緑ちゃんはよかった。顔立ちやたたずまいが作品の世界にとても合っていて、外国の観客が字幕で見たら完璧なのでは。ねじまき鳥の、主人公の近所の庭で日光浴をしている女の子の役なども似合いそう。

あと、レイコさんは、小説でイメージしていたよりもずっと上品できれいで、ビジュアル的に映画の雰囲気にハマっていた。でも、レイコさん自身のストーリーがまったく語られないまま話がすすむので、後半のワタナベとのシーンはどう処理するのだろう・・・とちょっと心配しながら見ていたら、なんとも、まあ、強行突破だったね。

凝った言い回し満載、愛や死や壊れた心にまつわるしんみりエピソードがぎっしりの長編小説を二時間程度にまとめあげようとすると、ある程度わかりやすい部分をすくいとってつなぎ合わせることで処理するしかないのはやはり仕方がないのかな。そう思うと、『トニー瀧谷』があれだけ見事に村上春樹の小説の世界や空気感を映像にできたのは、やはり短編小説がベースだったからなのかな。

特攻隊のキャスティングが完璧だったので、ラジオ体操のシーンをぜひ入れてほしかった。そしてなにげに、「YMOを探せ」状態だったのがちょっとウケた。この調子だと坂本さんも出てくるのかなあ、もしや緑のお父さん?とウキウキ待ってたのだけど、さすがに違った。松山キュンはどういう風に「やれやれ」って言うのかしら、とひそかに楽しみにしていたので、ノーやれやれだったのがちょっと残念。