わたしを離さないで

いさぎよくエピソードを削りつつオリジナルな補足を若干いれながらも、原作のなかで丁寧に構築されたさりげなく異常な美しい世界をそこなわない、安定感のある脚本だなあ、誰が脚色したんだろう?と興味津々で見ていたので、最後にプロデュースと脚本でアレックス・ガーランドの名前が出たとき、えマジで?えマジで?と二度見してしまった。イシグロさんの小説をガーランドが脚色するなんて、イギリス小説界の豪華なコラボレーションといった趣でうれしい。
もしわたしが脚色するなら(そんな機会はないが)、ノーフォークにまつわるエピソードはまるまる採用したいところ。そうすればラストシーンももっとさらにぐっと来るじゃない?と思ったんだけど、あえてくどくどと描かないことで作品がもつ静謐さが保たれたのかな。
いちばん印象的だったのはヘールシャムでの販売会の場面。外の世界では不要になってしまった使いふるされたような売り物に目を輝かせる子どもたちのようすに、自分たちの運命を疑わない彼らの姿が凝縮されているようで胸をしめつけられた。
ジュディ・ブリッジウォーターが歌う"Never Let Me Go"がついに聞かれる!というのも映画化ならではの喜び。想像していた以上にこてこてにエモーショナルなムード歌謡だったのでちょっとおもしろかった。