ドッグヴィル

ベタニー祭りもいよいよ佳境!というクライマックス気分もシュンとしぼむ、黒板に爪を立てる音のような映画でした。でも、嫌いじゃない。

人口わずか20数人の村ドッグヴィルと、そこへ逃げてきた訳ありの美しい女性(ニコール・キッドマン様)の物語。映画のセットは床に書かれた白線と、ちょっとした家具のみ、という舞台的な設定が、面白くて仕方がなかった。ドアを開けて閉める時はちゃんと「キイ」って音がするのがご愛嬌。

その不完全なセットの中で、役者たちの頭上に「で、監督はわたしに何をさせたいの?これはどんな映画になるの?」というような大きなクエスチョンマークが点滅しているような、戸惑いながら演技をしているような揺らぎが不思議な味わい。そしてやがて人間の残酷性、傲慢さ、倫理観の矛盾などが続々と、バナナの皮をむくようにあらわになり、痛い痛い痛い心が痛い、と思いつつも目が離せない感じ。やっぱりさー、ラース・フォン・トリア監督がつきつける人間の心の闇ってさ、不愉快だけど目を背けられない何かがあるよね、としたり顔で語りたくなります。

かようにヘビーな映画ゆえ、ベタニーさんにときめく暇もないのだけど、舞台設定がアメリカなので、いつもの魅惑的な英国アクセントを封印したニュートラルな英語を話しているところが、なかなかグッときました。