冬の欧州ひとり旅 五日目 ポルトガル

1日観光ツアーの日。スペイン人家族とオランダ人のカップルとともに、ミニバンに乗って和気藹々とリスボンを出発。郊外の山の上に、発電用の白い風車が沢山立っている光景が壮観。♪白色風車、安靜的轉著 、真實的感覺と口ずさみたくなるよね。ガイドさんと風車にまつわるEU諸国の電力の話をしていたら、「日本の電力は中国から供給されているの?」と聞かれてちとびっくり。極東はまだまだミステリアスなのだね。

まずはオビダス。城壁に囲まれた、小さなかわいらしい街。城壁の上を歩けるようになっていて、ぷらりと散策している途中で東洋人の男子に「スミマセン、写真トッテクダサイ」と日本語で声をかけられ、話してみたら香港人だった。「ナンデ日本語ハナセルノ?」と広東語で聞いてみると、今度は相手がびっくり。日本が好きで年にニ、三回遊びに行ってます、と言う香港人が日本語で、香港が大好きで年に二回ほど行っています、と言う日本人が片言の広東語で、ポルトガルの田舎の城壁の上でしばし立ち話というのも一興。

車は海岸沿いを走りナザレへ。馬に乗ったまま崖から落ちそうになった騎士の前にマリア様が現れて助かった、という場所にある展望台を見学。街の中へ降りていく途中で、荒れ狂う冬の海が目に入る。ガイドさんによると、私たちが訪れる前日に目の前の海で船が転覆し、6人の漁師が亡くなったとのこと。街の中心に降りると、砂浜では昨日亡くなった漁師たちの葬儀会場の準備が進んでいた。この世で起きるどの事故もおしなべて痛ましいものだけれど、船の事故というのは、船舶業に従事する人間が身内にいる者にとってはことさら胸に堪える。

海沿いのレストランでランチタイム。珍しくメニューにイワシの炭火焼きが記載されていたのでさっそくオーダー。一皿に5匹のイワシがドーーーン。野菜がドーン。完食。魚のスープも美味。食後に砂浜を散歩。お土産を売るおばあちゃんたちは、ナザレ特有の衣装であるところの、ミニスカート重ね着スタイルなのがキュート。

次にバターリャの豪華な修道院を見学。僧侶の格好をしたポール・ベタニー修道院内を歩いているさまを思い浮かべると、目の前の空間がとたんに生き生きと輝いてくるのでした。そしてひんやりとした回廊を歩いていると、なぜか突然アンコールワットの回廊を思い出し、アジアの湿った空気が猛烈に恋しくなった。

最後の目的地はファティマ。小、中学生のころ、ミサの時間に♪野ばらのにおう ルルドの岩屋 ファティマの丘の 楡の林に 現れましし 御母の御手に 清く輝くロザリオの珠 という歌をよく歌っていて、そのメロディラインがとても好きでした。この歌がまさにこのファティマの地についての歌であることを、日本出発前にガイドブックを見て初めて知ったのでした。子どものころに意味もよく分からず歌っていたファティマという固有名詞がこの場所につながっているなんて、ちょっと不思議な気持ち。

第一次世界大戦のさなか、羊番をしていた三人の子供たちに三つの予言(戦争の終結と、その子供たちが神の国へ召されるということと、ローマ法王の襲撃(三番目の予言はバチカンから門外不出とされていたらしい)を伝えたことから、聖地になったらしいです。そんな奇跡の地に、世界中から多くの巡礼者がやってくるとのことで、敷地に広がる大きな広場はどことなくバチカンに似た厳粛な空気。ろうそくに灯をともして祈り、聖堂へと進むとちょうどミサの最中だった。

リスボンに戻る途中は霧が出ていて、雲の中を走るような幻想的な黄昏ドライブ。

夜、近場の中華料理屋へ入ってテレビにふと目をやると、首に縄を巻かれたフセインの姿が写っていて非常におどろいた。人が人を支配するって、そして人が人を裁くって、なんだろうなあ、と思いながら食事。