冬の欧州ひとり旅 十四日目 オランダ

marik2007-01-08

目覚めると、やあ!今まで怠けていてゴメンね!という勢いで太陽が輝いていた。かようにスッキリ晴れ上がった空を見るのは実に元旦以来。

まずは運河を巡るクルーズボートに乗船。隣のブースに座っていた中国からの観光客のグループに、よかったら一緒に座らない?と声をかけられ、お菓子をもらったりおしゃべりしながら共にクルーズ。運河沿いに覗き見るアムステルダムの街は、パリのセーヌ川沿岸の貫禄ある美しさとはまた異なった、瀟洒に整った街並みでありながらどこか猥雑で、人々の生活の息遣いが聞こえてくるようなリアルさがワクワクする。どこか懐かしい、と思うのはハウステンボスの記憶に他ならない。意外とあなどれないハウステンボス。森の家(という意味らしいです。あと私が知っているオランダ語の単語は、ピーター・アーツアーネスト・ホーストくらいやね)。

実際に人が生活しているであろう船が多く停泊していて、船室の屋根がそのまま畑になっていて植物が茂っている船があったり、それぞれ趣向を凝らして心地よく暮らしていそうな気配が伝わってきた。でもあれ、日中はそばを観光ボートがガンガン通り過ぎるので、おちおちカーテンを開けたまま生着替えもできないよね。

うっとりしながら景色を眺める一方、隣に座っている上海出身の男子から「日本の出生率の低下の原因は?」とか「日本の空気汚染の状態は?」など、質問攻めに。なぜわたしは、アムステルダムの美しい景色を見ながら「働く女性が出産・子育てするには、まだまだ日本の子育て環境が整っていない、という現状が一因なのだと思います」などと、まじめに説明しているのだろう。

陽光の下、運河からの眺めを十分堪能して船を降りる頃には、今回の旅の中で一番テンションが上がっていた。わーい、旅行楽しいネー!今日はバリバリ観光するよ!と思った刹那、今回の旅で初めての体調不良の波が到来。4年に1度くらいの頻度で巡ってくる、貧血的ななにか。なぜ、このタイミングで?目の前が白いー、倒れるー、倒れちゃダメー、オレがんばれー!と励ましながらなんとかホテルに帰り着き、しばしダウン。

1時間ほどダラリと横たわった後どうにか持ち直し、おなかが空いたので近場のパンケーキ屋さんへ。パンケーキというよりクレープのようなものがお皿の上にドーーーーンと広がり、その上には桃とココナッツのパウダーがたっぷり乗っていた。甘さ控えめながら濃厚なホイップクリームとからめながら食べると、涙が出そうなほど美味。ガイドブックに載っていたそのお店の投稿記事に「大きいけれどペロっと食べてしまう」と書いてあるのは本当だなあ、と考えはじめると、昔のはねトびの何かのコントで秋山が「ペロっと食べてしもうた」と言っていた「ペロっ」という口調が頭の中をぐるぐる回って抜けなくなった。ペロっ。こういう、ふと思いついたくだらないことをすぐに言える相手がいないのは、一人旅のさびしい側面だと思う。深皿に入ったホイップクリームの下の方はエッグクリームになっていてかなりアルコールが強く、病み上がりにはちとキツかった。ああ、でも本当に美味しかった。あのパンケーキと、リスボンのローストチキンは、また食べに行きたいよ。

トラムに乗り、運河から眺めた街を今度は陸地から見る。やっぱり好きだなあ。景色も、空気も。いくつかの広場を通り過ぎ、ゴッホ美術館へ。ゴッホが浮世絵を模写した絵を初めて見た。広重の、あの、雨が降る橋の上の絵の模写と、その絵の周りに見よう見まねで書き込まれた拙い漢字を眺めていると、なんとなくじんとする。あと、晩年に描かれた、鮮やかで上品な青の背景に白いアーモンドの花が描かれた絵を見て、このデザインの着物が着たい!と思いました。すっごく綺麗な色合い。

で、「ひまわり」は?と見渡せど、見当たらない。またしてもガッカリ勃発か・・・と思ったら、特別展示展の案内があって、ひまわり等の何点かの絵は下の階のエキシビジョンに展示されてますよ、と書いてあって安堵。ゴッホに影響を受けた20世紀初頭の画家たち、というテーマで、クリムトエゴン・シーレなどの絵と、彼らが模倣したであろうと目されているゴッホの絵が並べて展示されているのは興味深かった。生気あふれる「ひまわり」の横に、エゴン・シーレの、同じような構図の枯れはてた花のうすら寂しい絵が並んでいたり。しかし「ひまわり」はすばらしいね。鮮やかな黄色の渦を見ているだけで、心が沸き立つ。この絵を家の西側に置いたら金運アップ、Dr.コパも大喜びだろうなあ、と思いながら、絵の前から立ち去りがたいきもちでいっぱいになるほど惹きつけられた。

中央駅行きのトラムに乗り、突発的に知らない場所で適当に降りてみた。小雨が降り出した夕闇の中、地図も見ずによく分からない街を、人の流れを頼りにぶらぶらと歩く。心細くもワクワクする。やがてなんとなく、この道をこのまま行けばダム広場に着くのでは、という気がしてきて、そのまま歩んでいるとビンゴ。野生の勘バンザイ。ああ、旅って楽しいな。ようやくエンジンがかかってきたかんじ。

と思ったら明日はもう帰る日だよ。パンケーキが意外と腹持ちがよく、ご飯をがっつり食べたいモードになかなかならず、街角でフライドポテトwithマヨネーズを買い食いしたのが、二週間にわたる旅の打ち上げディナーとあいなりました。