コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』@千秋楽

marik2008-06-29

5年前に見たとき完全に魂を持っていかれたこの作品を、またしても渋谷で見られる喜びよ!開演前に、入場する観客に混じって役者や鳴り物をならす人たちがぷらぷらと客席を歩き回ったり座り込んだりする、現代と江戸が入り混じった混沌からすでに鳥肌が立つほど楽しい。そして舞台の上でケンカがはじまり、気づけば芝居が始まっているという、なんとも心躍る導入部。

この芝居にはお辰さんという超男前な女性(忠義心から申し出たことに対して、お前の顔には色気があるからそんなことは任せられないと言われ、顔に焼きごてを押し当てて自分の顔を傷つけた挙句、そんな顔になってしまってはアンタの旦那ががっかりするだろう、との言葉に、「うちの人が惚れているのは私のココ(顔)ではなく、ココ(心)でござんす」と返す名場面がある)が出てくるのだけど、今回は七之助がこれを超男前にやっていて惚れ惚れした。江戸時代の女の人って本当にかっこいい。いつもいつも思うことながら、見るたびにシッチーはしなやかさや表現力を増しているなあ。

照明はろうそくの灯りのみの中で勘三郎さんと笹野さんがもみ合う壮絶な殺しのシーンは、何の感情によるのもなのかわからないのだけど、どうしても涙が出てしまう。美しさとも禍々しさともつかない、正体不明の強い力が舞台からビュンビュン伝わってきて、ものすごく心が震えてしょうがないのです。

二幕目のクライマックスの大捕物はやはり圧巻。勘三郎さんと勘太郎が、舞踏にも似た美しくも激しい動きで見せる立ち回りにシビれ、通路をかけまわる勘三郎さんと追手たちの勢い(通路沿いに座っていたので、耳元を風が吹きぬけるかんじで臨場感に満ち満ちていた)にシビれ、はしごの上で見得を切る勘三郎さんの姿に、ああ、十八代目を、コクーン歌舞伎を見られる時代に生まれてよかった!地球に生まれてよかった!という思いでいっぱいに。

前回ほんっとに度肝を抜かれたラストシーンが、ドイツ公演の後の凱旋公演ということでドイツバージョンになっていたのが可笑しかった。江戸の舞台の背後にベルリンの壁が現れ、壁が割れたら向こうには渋谷の街、ハイ、そしてパトカー(ドイツの)どーん!というありえなさ加減が最高にクール。

今日は千秋楽のためか、カーテンコールでは紙ふぶきが吹きあれ、舞台の上からは色とりどりのテープが降りてきて、長い長い風船が舞台から客席に伸びていく大騒ぎ。降り注ぐ紙ふぶきの中、芝居を終えた役者さんたちがすぐそばをニコニコと通りすぎて行くのが幸せすぎた。なにもかもが素晴らしい祭。あと、全編とおして効果的に入る太鼓がものすごくよかった。日本人の原始的な部分に深く共鳴する音なのだと実感。