天使の眼、野獣の街 (跟蹤 /Eye in the Sky)

「放・逐」に続き、会社帰りに渋谷でサイモン・ヤムが出演する映画を普通に観ることができるなんて、すっごく贅沢な気分!飛行機のちっこい画面で見たきりだったので、あらためて大画面で見ると細かいところでいろいろ気づくことがあって新鮮だった。仲間内の乱闘シーンが始まった瞬間にバーベキュー・セットをすばやく避難させるユキちゃん(林雪)や、ヤムヤムがにんじんを買いに行ったうさぎの話をしているときに、街角の看板かなにかの、にんじんをくわえたうさぎの絵が映りこんでいたりするのがキュート。

ヤムヤムの優しい上司っぷりがたまらない。そしてセントラルや佐敦の街角をなめるようにカメラが追う映像にキュンキュンきた。雑踏にさりげなくまぎれこむ捜査員、という俯瞰の映像が多いせいか、街が、なんか、ものすごく素の顔というか、映画の撮影をしている雰囲気がまったくない、見慣れたいつも通りの香港の街がそこに映っているところがとてもリアルで、なんとも郷愁をかきたてられる。

物騒なシーンは多いものの、どちらかというとこの作品には新人女子のお仕事成長物語的な温かさや爽やかさを強く感じるので、邦題やポスターに、この映画の本当のよさが出ていないようで勿体ない気がする。英語→カタカナの安易なタイトルの乱発はぞっとしないけれど、これはフィルメックスで上映されたときのまんま「アイ・イン・ザ・スカイ」でもアリなのでは。劇中のせりふにも出てくるように捜査チームが天の眼となって対象をしっかり見張る、というニュアンスとともに、「お天道様はちゃんと見てるんだよ」という教訓も含まれているようで、後半の展開に至極ぴったりなのに。ジョニー・トー組のとても魅力的な香港映画がせっかくシネマライズで公開されてるのだから、もっと広い客層に訴求する手があるのではないかと、ガラガラの客席で非常にはがゆく思いました。