裏切りのサーカス Tinker Tailor Soldier Spy

かなり好き!多くを説明せずに観客に解釈をゆだねる匙加減が絶妙で、与えられた情報を咀嚼しながら脳内で物語を整えていく作業が心地よかった。パーティの場面の構成と導入タイミングと分割の仕方が完璧。抑えた色調と70年代のクラシカルな世界が(とくに車が素敵!)地味美しく、あえてのソ連国歌も含めて、音楽のチョイスもいい。英国の渋おじさん大集合な味わい深い絵面がたまらないわー、と思いながら観ていて、ふと、コリン・ファースが渋おじさん枠にすっかりシフトしてしまったことを実感し愕然。

わたしはいまだに2、3年に一度は「スパイになりたい」と憧れる周期がやってくる(大人としてどうかと思う)んだけど、スパイの哀切がしみじみと伝わってきて、やはり生半可な気持ちでは目指せないものですね、と思いました。拷問こわい!映画のなかで"mole"(もぐら=二重スパイ)という言葉が頻出するんだけど、MI6ならぬMI7で働くジョニー・イングリッシュの続篇のほうでローワン・アトキンソンがmoleをvole(野ネズミ=ただの野ネズミ)と間違って覚えててしたり顔で使うシーンを何度も思い出してしまった。ふふふ。

ゲイリー・オールドマンの静かなたたずまいが与える緊張感が半端なくて素晴らしい。ただふつうにメガネを作るのに度数を調整したり、淡々と泳いでいるような場面でも、なにかすごい思惑があるんじゃないかとどきどき。たぶんこの役でだと思うけど、今年のアカデミー賞か何かの男優賞にノミネートされてたとき、ナタリー・ポートマンがプレゼンターで出てきて、「わたし、子どものころにゲイリーに殺されかけたのよ」って言ってたのがすごい可笑しかった。