神様メール Le Tout Nouveau Testament


わたしのおとうさんの仕事は神様です。人間の世界で起きるいやな出来事のあれこれは、おとうさんがパソコンで操作しているのです。人間にだけでなく、わたしたち家族にもパワーハラスメントモラルハラスメントの手はゆるめません。お兄ちゃんのJCはそんな家を出て行ったあと、12人の使徒を集めて、いろいろあって磔刑になったんだけど、この話は有名ですよね。わたしもある日とうとうおとうさんへの怒りが爆発。おとうさんのパソコンから人間たちにそれぞれの余命を教えるメールを送って、洗濯機のドアから家出しました。そして、街角で出会ったホームレスに新・新約聖書を書きとめてもらうことにしたのです。わたしが6人の使徒を集めて、お兄ちゃんの使徒とあわせて合計18人になったら何かがおきるかも!

という発想もなかなかすごいけど、ちゃんと映画として作り上げた肝の据わり具合をほんと尊敬する。欧州は、まあ、こういう洒落が通じるとしても、アメリカの原理主義者あたりに感知されたらマジで命の危険にさらされるレベルの大胆なストーリー。カトリーヌ・ドヌーブ様に「ゴリラとラブシーンを演じてください」ってオファーできるのもほんと肝が据わってる。主人公の10歳の女の子の、凄みと愛らしさが同居している面構えもいいし、黒いマニキュアがかわいい。

ブラックなユーモアのはしばしに世界の美しさや人間の善き部分がちらちらと輝いているのが愛おしくて、シュールさと幸福感にあふれたクライマックスにときめきが止まらなくなる。もしも自分の命があと何時間、何年残されているのか明確にわかったら、何をするかな?新しい愛を見つけるパターンも、世界の果てまで行くパターンもいいなー。人間のいびつさを陽気に優しく、でもやっぱりシニカルに照らすこの映画の目線が本当に好き。エンドロールも刺繍っぽい(本物?)背景で最後までずっと可愛い。そしてエンドロール後のオチがまたブラックで笑う。

人の中にそれぞれ違う音楽が流れているのを主人公が聴き取れる、という設定も素敵で、自分の中にはどんな音楽が流れてるのだろうと考えるのが楽しい。『オンブラ・マイ・フ』とか美しい旋律だったら嬉しいな。

この監督の作品は『八日目』しか見たことなかったんだけど、あの作品でダニエル・オートゥイユの相方役だった男の人がちょろっと出てきて懐かしかった。
JC(Jesus Christ)のことを「JCってジャン・クロード・バンダムか?」って言うシーン、唐突すぎてウケる!って思ったけど、あ、そっか、ジャン・クロード・バンダムってベルギー人だったね、と途中で思い出して納得。ベルギー人にとっては日本におけるケン・ワタナベ的な存在なのかな。昔アメリカでJCバンダムを崇拝する男の子と仲良くなって、日本では眠気ざましのガムのCMに出てるんだよ、と教えたらめっちゃショック受けてたことを何年かに一回思い出すんだけど、この映画でまさに7年ぶりくらいにそのことを思い出しました。今だったらYoutubeでほらほらー、って見せてあげられる(いやがらせ)のにね。