パルコ歌舞伎『決闘!高田馬場』

marik2006-03-20



◎ネタバレあり升◎


開演前、席について舞台を見てまずビックリ。何も無い。なーんにもない。がらんとした舞台の後方の薄い黒い幕の向こう側、高い段の上に長唄や鳴物の人たちが座っているのがうっすら見えて、さりげなく古畑任三郎のテーマを奏でたり。いざ開演すると、稼働式のセットや回り舞台ですらりすらりと場面展開するのが心地よかったです。冒頭の♪高田馬場ババババババパルコ歌舞伎見参!という脱力テーマソングですでにニッコリ。

染五郎の器用さと華やかさに息を飲みつつ、勘太郎の弾けっぷりを楽しんでいるところに亀治郎が正統派歌舞伎の風をさっと吹かせる、絶妙のバランス。今日は勘太郎の張り切りすぎたアドリブに亀治郎さんが素で笑いが止まらなくなる場面も。

野田版歌舞伎でもそうだったけど、ここぞとばかりに時事ネタを嬉々としてやっている役者さんたちの姿が微笑ましい。今回は勘太郎カーリング染五郎の華麗なイナバウアーあたりが。2006年の3月しかできないネタだよね。街角でそこら辺の男子がやっていたらすごく冷たい眼で見てしまいそうですが、あの場ではOK。幼少から鍛錬と経験を積み重ねてきた、揺ぎない基礎を持っている人たちがやることだから、何をやっても安心して観ていられる。時折入る歌舞伎のひな型的場面で、澤瀉屋!って声が聞きたい、と何度か思ったものの大向こうさんがいないのがちょっと寂しかった。かけ声がかかる日もあるのかな?

いざ助太刀へ、という展開から、これは結局いわゆる自分探しの話なのかしら、と思いました。自分のあるべき姿に向けて走るその様がすがすがしく、最後の染五郎の立ち姿には、もーうホントに感動のため息が。

今日は最前列の真ん中という、いつ鼻血が出てもおかしくはない座席で鑑賞したのだけど、クライマックスのあたりで役者さんが一列に並んで見栄を切る場面を真下から見上げた時、ホエエエエーーっと口から魂が抜けてしまいそうなほど心を奪われた。歌舞伎の様式の美しさが光った瞬間。あのこじんまりしたパルコ劇場は今、伝統と21世紀の才能が化学反応を起こす、幸せな空間と化しています。

今まで観た舞台の中で一番笑い殺される〜と思ったのは『オケピ!』の初演版だったのだけど、今回の舞台でそれを越えるオモシロさを体感。三谷幸喜による三谷幸喜超え。ミタニンはどこまで行ってしまうのかしらん。この演目、何度でも観たいし更なる新作歌舞伎も観たい!