コクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』 北番

今日は北番を鑑賞。昼・夜で違う役と違う演出の同じ演目に出演する皆さんの脳内スイッチはどうなっているんだろう。すごすぎる。私だったら絶対途中で「あれ?これ、水に濡れるんだっけ?どっちだっけ?」とか「オレ、殺すんだっけ、殺されるんだっけ?」などと舞台の上で急に分からなくなってしまったりすると思う。

序盤の芝居は南番とほぼ同じように進みつつも、若干テンポが早く、恐怖場面は少なめ。後半は三角屋敷などの新たな場面が新鮮。お袖(七之助)の女気というか、江戸の女性の高潔さに心打たれた。北番の方が演劇の匂いが強い。劇団つきかげと一角獣が実験的に上演して、街で大評判になるような、そんな感じの。ただ、音楽だけがちょっと。電子的な音楽のやや前衛的なノリが私はちょっぴり苦手で、長唄や鳴物のあの美しい音が恋しくなってしまいました。人間の業がグッと迫ってくるような幕切れは圧巻。南番の最強にエンターテイニングな楽しさとはまた違った、とてもいい芝居を見たというしみじとした思いに満たされました。
千秋楽は明日だけど、北番の上演は今日が最後。そのためという訳でもないだろうけど、伊右衛門がこの前見たときより更に気合の入ったサディストになっていて怖かったヨー。みかんの皮でも投げつけてやろうかと思うくらいにイヤな男を熱演する橋之介さんがもう一役、病に臥せっている偉い人の役で出てきた時は心底ホッとした。あと、ネズミ怖い。

開演前に客席で蜷川さんと野田秀樹が談笑している姿を見かけ、なんとなく豪華な光景だと思いました。そして舞台のちょっとふざけたシーンを見ながら「ここでフォー!ってやってね」と、あのダンディな串田さんが指導したのかと想像すると楽しい気持ちに。

来年のNY公演では是非、四谷怪談の南番をやっていただきたいと勝手に夢想しているのだけど、あれをアメリカで上演するなら、毎回前方5列目くらいまでのオーディエンスに「水に濡れて万が一風邪をひくことがあっても、Mr.カンザブローを訴えません」という書面にサインしてもらわなければいけないだろうと勝手に心配しています。