嫌われ松子の一年 中谷美紀

marik2006-05-17


私にはフェミニズム的な思考回路は装備されていないと常々思っていたのに、「嫌われ松子の一生」を読んだ時「なーんか女を馬鹿にしてるなあ」という印象を受け、そう感じる自分にちょっと驚きました。作者はそれなりに愛情を持って書いているのだとは思うけれど、なんとなく女性全体(こんな乱暴なくくり方は本当にイヤなのですが)が小馬鹿にされ、蹂躙されているような不快感が拭い去れなかったのです。そして映画化されたその不幸な物語の予告編のあまりにもポップでヴィヴィッドな映像に度肝を抜かれ、その映像世界はとっても素敵だと思ったのだけど、やはりどこか、男性クリエーターに女の不幸が笑い物にされている、という思いが頭を掠めました。

一方、中谷美紀といえば私の中では世界三大美女の一人(あとの二人は、ミシェル・リーとニコール・キッドマン。そういえばニコマン様婚約したの?)であり、「中谷美紀だったら何をやっても許す」が私の座右の銘です。彼女は「嫌われ松子の一生」を読んでなかなか感じ入るものがあったようで、「あまりに悲惨すぎて笑える」松子像を求める監督との意見の食い違いを認識しつつ、まずは彼の演出手腕に任せましょうと撮影に飛び込んだ日々の記録がこの本。

やー、やっぱり中谷美紀はイイ。生真面目でストイックそうでいて、人生の面白みはしっかりと味わえる余裕やユーモアがあって。仕事に対しての真摯な姿勢も印象的。だけど常に美しくピンと背筋が伸びているような彼女でも、撮影でドロドロに疲れて睡眠不足でヘロヘロになって、もーなんなんだろう私の仕事・・・生まれ変わったら女優になんか絶対なるまい、というようなことを考えたりするのだと安心しました。

そんな美紀様の冷静で上品な文体で綴られる監督の姿といったら、とにかく読んでいるだけでこういう人と一緒に仕事するのはムリ!と思ってしまうような気分屋&こだわり屋なのだけど、嫌いにはなれない感じは確かにします。彼女は果敢にもちょっかいだしたりヤイヤイ言い合ったりしたり、、時には心底怒ったりもしているけれども。ある時、監督に対して本気で怒りを覚えるくだりがあるのだけど、中谷サンの怒り方・抗議の手段が妙にエレガントで笑った。私は「上妻物語」を見ていないので、監督の手腕がいかほどの物か分からないのですが(すごく評判いいよね)、新しい何かを創り出そうとせずにはいられない人の業を感じるので、解釈の違いはあれど、この人が真剣に作った松子の映像は見てみたいなあ、という気になります。

監督とのさりげない嫌味の応酬はどれも面白いのだけど、ある日監督の発言にカチンと来た彼女が、「明日から、明日香役の柴咲コウちゃんが松子をやります。観客も途中で変わったことに誰も気付かないと思いますから」と言い放ったところが最高に笑った。