エジプト・中東シリーズ 二日目:ギザ/カイロ

朝食のあと歩いてピラミッドへ。ホテルを出た瞬間から声がけ地獄がはじまったので音楽を聴きながら歩いているとノーストレス。と思いきや、後ろから足を踏んできて注意をひこうとする客引きまでいて憤死しそう。チケット売り場はきっと坂の上のほうねー、と歩いていると、後ろから「チケット売り場はこっちだ!ここで買わないと中に入れないぞ」と路地裏のプレハブ小屋みたいなところを指差して脅すような口調で言ってくる人が登場。迫真の演技に100%の確率でうそだと確信し、無視して歩いていると、「なぜ言うことを聞かない。ここでチケット買わないと中に入れないぞ。ラクダにも乗せてやる」と言い続けながらずーーーーっとついてくるので「し・つ・こ・い」と一喝。
ゲートの近くにそれらしき建物が見えてきたので、通りすがりの西洋人カップルに念のため「チケット売り場ってあっちであってます?」と聞いてみたら「そう、あの建物よ。違う場所を言ってくる人がいたら絶対に信じちゃだめよ」と言われ「ですよね〜」と笑いながら別れ、無事ただしいチケット売り場に到着。午前午後それぞれ150名ずつ限定でクフ王のピラミッドの内部に入れるチケットも入手し、いざピラミッドのエリアへ。物売り天国、らくだ遣い天国で、ピラミッドを眺めて感慨にひたるひまもあまりない。嗚呼。

ピラミッドの中にひとりで入るのはちょっと怖いので、どこかの団体が入るタイミングをさりげなく見計らい、日本人のご夫婦のあとをついて入ピラミッド。入口でカメラあずけなきゃいけないのね。
勝手にミステリーハンター気分で「さあ、これがピラミッドの内部です!」とか心のなかで盛り上がりつつ斜め上に向かって伸びる狭い通路(ビッグサンダーマウンテンの、最初にレールを上っていくような角度と雰囲気)を歩きはじめたら思った以上に天井が低くて頭をゴゴゴゴゴゴーとぶつけて「いでででででで」とひとりで悲鳴。帽子を深めにかぶってたので、よく見えてなかったのねー。中腰にならなきゃ無理。
上からひとが降りてきたら端に身を寄せてお互いに譲り合ったり、「上までもう少しですよー」と励まされたり。汗びっしょりでゼイゼイ言いながらのぼった先には『王の間』と呼ばれる小部屋があり、石の棺らしきものが。ほんのり湿気がこもって生あたたかい。自分が閉所恐怖症であることを一瞬思い出したけれど、ここは大丈夫だった。
出口に戻ってカメラを受け取ったら、カメラ預かり係のおじさんに「写真とってやるから中についておいで」と言われた。内部の写真NGだから彼が預かっているというのに?お断りしたら「なんで断る!サービスだ!さあ中に行こう」と怖い顔で言われたので「いやほんとけっこうです」と逃げるように去った。こういうの、国によってはただの親切なのかと受け入れるときもあるけれど、エジプトではちょっと。
次のピラミッドに行く途中でエジプトの女子たちに「一緒に写真とってくださーい」と言われキャッキャ言いながら写真とったり、そのあとまた別の場所ですれ違ったらニコニコ手をふりあったりしてなごむ。
さらにカフラー王のピラミッド、そしてスフィンクスを歩いて巡りながら悠久のエジプトに想いをはせ・・・ようとするも、土産物うり(これサービスであげるー、と勝手にTシャツとか無理やり持たせてくる)や、ラクダやロバ遣いが、次から次へと「ラクダ乗る?」「中国人?」「ロバ乗る?」「日本人?山本山」「かわいいねー、一人?」「オレの写真タダで撮っていいよ」「山本山!」「また会ったね。ラクダ乗る?」「彼氏いる?」「山本山」「嫁にこないか?」「また会ったね。ロバ乗る?」「ヤマモトヤマ!」と、間断なく声をかけ続けてくるので、"NO, thank you" "No" "I said NO" "Don't touch me"とひたすら応戦。無視したり英語がわからないふりをしてもまったく効き目なし。
スフィンクス前のKFCで昼ごはんを食べようと思ってたけれど、精神的疲労が著しくお腹もすかない。上記のやりとりを再度繰り返しながら出口へ。いやいやいや、ピラミッド、なかなかの戦場でした。女ひとり、というのが最悪のパターンなだけで、カップルもしくは団体だったらもうちょっと快適なのではないかと思います。途中、街にコーランが流れるなかでピラミッドを眺めるのはなかなか風情があってよかったです。

カイロ市内の考古学博物館まで行く路線バスがあるらしいので、それを待ってみようと、お目当てのバスの番号のバス停にかかれたアラビア数字を必死で照合。OK、ここで合ってる。待ってる間もタクシーの客引きなどがしつこいのはお約束。あと、セルビスという乗り合いバンがたくさん走っていて「ギザ、ギザ(おそらくギザの地下鉄駅行きという意味)」などと車掌が車のなかから叫ぶ様子を目にし、そうか、ギザの駅までセルビスで行って、そこから地下鉄でカイロ市内に入るという手もあるな、と思案。ただ、エジプト人男性がぎゅうぎゅうにつまった乗り合いバンに一人で乗るには、今のわたしは疲れすぎている。
と逡巡していると、バックパックを背負った西洋人男子が一人やってきて、乗り合いバスをとめて行先を聞いては見送っているのを発見。思わず近寄り「もしかしてギザの駅まで行きたいの?」「うん」「わたしもー!」とすかさず相棒ゲット。
どうにかギザに行くらしきセルビスに二人で乗り込んだら、車掌に5ポンドと言われ(おそらく外国人価格。カイロ市内まで行く快適なエアコンバスで3ポンドしないくらい)、それはないでしょー、と相棒のPくんが2ポンド渡すのでわたしも2ポンドで手打ち。ひとりで戦わくなてもいいって、楽だね!
ドイツ人のPくん、ルクソールからのバスでその日の朝にカイロについてピラミッドを見学したところで、これから空港に行ってインドネシア行きの飛行機に乗る、というなかなかのハードスケジュール。バンの車窓からは、川に大量に浮かんだゴミ袋などなかなかごつい光景がてんこ盛りで「ドイツと日本では決して見られない風景だね」と言い合う。
駅についた、と車掌から言われて降りた場所は、感覚からいってどうもギザ駅ではなさそうなかんじ。この世の果てのような場所を歩いていると線路が見えてきて人でごったがえしている。駅をどうにか探し当てるも駅名がわからない。数人に聞き込みをしたら、どうもギザの次の駅っぽい。窓口できっぷを買って電車に乗り込んでどうにかひとごこち。わざわざ席を空けて「ここに座りなよー」と言ってくれるひとたちもいたりして、観光客を相手に商売をしているひと以外のエジプト人の優しさにほっとする。
タハリール広場の最寄駅で下車。この近くから出る空港行きのバスにPくんは乗り、わたしはすぐ近くの考古学博物館に行く、というプランの前にお昼ご飯たべよー、ということでそこらへんの屋台でコシャリを買って広場の一角に座ってランチ。コシャリとはエジプトの定番料理で、マカロニとパスタと豆とミートソースと辛いスパイスがごっちゃになった食べ物。辛いけど美味しい!
タハリール広場にはテントがいくつも貼ってあったりして、なんとなく不穏な雰囲気の場所だなー、と思っていたら、まさに民主化運動のときに中心となった場所だったのですね。
博物館までPくんに送ってもらってお別れ。短い時間だったけど、楽しいおしゃべりでしばし心の休息が得られたうえに、エジプトのような難易度の高い国を男子と一緒に歩く安心感、プライスレス。Pくんありがとう。

さて、エジプト考古学博物館。エジプトの歴史というと「ナイルのたまもの」とか「アメンホテプ」とか語感の良いフレーズくらいしか覚えてなくて、詳しい歴史をすっかり忘れてしまっているけれど、かなり心躍る場所でした。カメラ持ち込み禁止で、別途預けなければならなかったのだけど、館内では地元の人々がアイホン等のカメラであちこちで撮影していた。わたしはツタンカーメンに怒られそうなので撮影しませんでしたが。
ツタンカーメンのマスクや装飾品はたいそう美しかったです。英語の説明書きに最初のほうは"Tutankhamen"と表記されてるんだけど、後半は"Tut'sのなんちゃら"って書いてあって、なんかかわいらしかった。ツタンカーメン、略してTut。日本人の団体のおばさまたちが「わたし、もらえるならこれがいいわ!」と装飾品を見ながらウキウキ話していてほほえましかった。わたしも頭のなかでまったく同じこと考えてました。
その他館内のこまごまとした装飾品や人形やミイラの内臓入れ(!)や棺や大きな石像など、見ごたえたっぷり。青ってやっぱり一番残る色なんだなー、とあらためて思ったり。なかなか去りがたい気持ちでうろうろ歩き回りました。

ミイラの展示室は別になっていて、若干の恐怖心があるので足を踏み入れず。あと、考古学博物館の横にホテルっぽい大きな建物があるんだけど、明らかに火事で盛大に燃えてそのまま放置したみたいな状態になっていてすごく気になった。なんだろう?
たいへん満足して博物館を出て、またこれからギザまで帰らねばなりません。思いつくオプションはふたつ。ひとつは、ピラミッド行きのエアコンバス。夕方は利用する観光客も少ないであろうから座れると思うので、渋滞していても平気な気がする。あるいは、ギザまで地下鉄ですいすい行って、そこからセルビスかタクシーでホテルまで戻る。
よし、エアコンバスにしよう、と博物館の裏のほうにバスターミナルに行ってみる。係のひとに聞いたら「ターミナルの中じゃなくてあっち」と言われ、どっちかわからないけどとりあえず行ってみると、車がびゅんびゅん行きかう路肩に特に標識はないものの人が並んでいるので、そのあたりかなー、と立ってみる。
ここまで書いてなかったけど、カイロ、ギザあたりは信号らしい信号が無いうえに歩行者優先という概念も皆無なので、猛スピードでつっこんでくる車のすきまを縫うように道路を渡るしかないという、道路わたり検定1級レベルの街です。何十回も肝が冷えました。
あと、バスを待ちながらガイドブックを開いていると、排気ガスのため30秒くらいでページに黒いよごれがびゃーっとつくのが驚きを通り越して笑ってしまった。
お目当てのエアコンバスのアラビア数字は頭に叩き込んだものの不安でいっぱい。近くで止まったバス、この数字はたぶん違うだろうなー、と思いつつ車体を指差し隣に立っていたおじいさんに「ギザ?」と聞くと「違うよ」と。そのやりとりの後ずっと気にかけていただき、近くでバスが止まるたびに「これはギザ行きじゃない」と教えてくれ、十数分後、「あのバスはギザに行く」と、ちょっと離れたところのバスを指し、杖をつきながらわたしと一緒にバスまでわざわざ行ってくれて運転手に「この子はギザに行くらしい」的なことを伝え、バイバイとお見送りしていただいた。おじいさん、ありがとうございます!
感謝でいっぱいになりながら乗り込んだバス、あれ?エアコンバスじゃない。料金の払い方もよくわからない。香港のミニバスくらいのサイズで、通路に人がぎゅうぎゅうになって立っていて、ナイル川にかかる橋のあたりで渋滞で立ち往生。そして、このバスはギザまで行くとしても、ピラミッド方面まで行くかどうかは謎。これなら地下鉄のほうがよかったのかな・・・とナイル川を眺めながら悶々。この川にうっかり落ちてしまったら、タイムスリップしてメンフィス様に出会ってしまうかもしれないわね。王家の紋章ってまだ完結してないんだっけ?
やがて川を超えてしまうと、じわりじわりと動くバスがどこを走っているのかわからなくなり、道路沿いのアラビア語の表示では見当もつかない。バスのなかを見ていると、新たに乗ってきたひとが前のひとにお金をリレー形式でわたし、何かきっぷみたいな紙切れとおつりをまたリレー形式でもらっていて、あれが料金の支払い方法なのかと把握。乗って1時間後くらいに、隣に立っていた男性に「これ、私の分。よろしく」と2ポンドほどわたすと「えーー、まだ払ってなかったの?」的なことを言いながらウケていて、前にお金を回してくれて、紙切れが前から戻ってきた。よくわからないけどこれで無賃乗車は回避。
途中、渋滞が解消されたところでものすごいスピードでバスが走っていたところ、ものすごい急ブレーキとともに停車。腰をへんな具合にひねってしまいちょっと焦った。猛スピードのバスの前を強引に渡ろうとした猛者がいたらしく、運転手がバスを降りていってすごい勢いで相手に怒鳴りちらし、しばらく口げんかタイム。口げんかはエジプト名物らしく、わたしもエジプト二日目にして激しい口げんかの様子を見るのはこれが4回目くらいでした。
ギザの駅ってこの辺かなー、というところで迷っているうちに降りそびれ、いよいよバスがどこに向かっているかわからなくなってしまった。でもありがとうスティーブ・ジョブズアイポンでグーグルマップを起動し、現在地の把握を開始。車内がだんだん空いてきて、席があくたびに誰かしらが「ここ空いたから座りなよ」っぽいことを言ってくれる。ありがとうございます、でも大丈夫ですー、と言いながら必死で窓の外と電話をガン見。
立っているひとがまったくいなくなったところでわたしもようやく着席。つぎに乗ってきて後ろの席にすわったおばさまが「はい、料金よろしくね」となぜかわたしにバス代を渡してくるので戸惑いつつも、運転手のすぐ後ろに座っている男のひと(ふつうのお客さん)のところまでお金を持っていき「これ、あの女のひとの分です」とおつかい。その後その男のひとがきっぷを手にこちらに来たので、「彼女にわたしてね」と後ろの女性を示し、おつかい完了。
そんなことをしつつグーグルマップとのにらめっこは続く。なんとなく、バスはホテルに近づいてきている気配。この角を曲がらないでまっすぐ行ってくれたら助かるなー、とか、ここはまっすぐ行ってくれると方向があってるんだけどなー、という願いがことごとく叶い、やがて車窓にピラミッドが見えてきた!ゴールは近い!!!

奇跡的に、やがてホテルのすぐ近くの交差点までバスが近づき、先ほどおばさまのバス代の支払いをお願いした男のひとに「わたしここで降りたいんで運転手に伝えてください」とずうずうしくお願いしたら、戸惑いつつもちゃんと伝えてくれた。ありがとうございます!
ということで、カイロを出て2時間半くらいでしょうか。無事、ホテルに帰りつくことができました。ホテル近くの駐車場でぼーっとしているおとなしそうなおじいさんに「おう、おかえり!」と言われてホッとした。
精神的肉体的疲労がなかなかのもので、部屋にいっぱい置いてもらっていたフルーツで晩御飯はもう十分。いやはや、濃い一日だった。