北米・南米シリーズ2012 Day 18: プエルト・イグアス−ブエノスアイレス

朝食のあとチェックアウトして荷物をあずかってもらい、公園内を最後の散策。Upper trailをぷらぷら歩きながらイグアスの滝たちに別れを告げた。ごきげんよう
タクシーで空港に向かいラン・アルヘンティナ航空でチェックイン。LANってなんとなく安心する。ワンワールドなのもうれしい。
搭乗の際50代60代くらいの日本人の女性ツアー客をたくさん見かけたのだけど、「次は春にパナマに行くの〜」と話している高齢の女性がいて素敵だと思った。
機内でかかっているとついつい見てしまう”Just for Laughs”が流れていて、また見てしまう。一度あのドッキリにひっかかってみたい。たぶんカナダの番組なんだけど、シンガポールっぽいところで撮影した回をどこかで見た気がする。
ブエノスアイレスへの着陸の際、大都会の景色のなかに飛行機がぐんぐん降りていくのでびっくり。
飛行機を降りたあとお手洗いを探して行ってみると工事中。あとから来たアメリカ人のおばさまと「ここ使えないみたいねー」と言いあいながら仕方なくバゲッジクレームに向かおうとすると、そのやりとりを見ていたっぽい近くのベンチに座っていたひとがあっちにトイレあるよ、と身振りで教えてくれたのでお礼を言って二人で向かって無事発見。しかしこれはブエノスアイレスでの親切体験のほんのはじまりにすぎなかったのでした。
荷物をピックアップしてタクシーに乗り走りはじめると、ほぼ正面から飛行機がぐんぐん近づいてくる!近い!近すぎる!運転手さんが、すごい迫力でしょ、みたいなことを言ってくるのでうんうん、とうなずく。国内線のニューベリー空港というところなんだけど、ここの離着陸はかつての啓徳空港レベルなのではないかしら。
街中に紫の花がついた木がたくさん立っていて美しい。春先だというブエノスアイレスの気候がどんなかんじなのか読めなかったんだけど、空気は夏ですね完全に。ただブエノスアイレスに降り立ってからやたらとくしゃみが出るように。

Tango Lodgeというホテルに到着。ここ、とてもとても素晴らしいホテルだった。レセプションのスタッフがチェックインの際に市内のだいたいの土地勘をつかめるような説明やホテル近辺の情報をていねいに教えてくれたりするのも、ものすごく感じがいい。タンゴの無料レッスンを毎日やってるから、ぜひ出てみて!と言われ「えー、一人でもいいのお?英語で教えてくれるのお?」とモジモジしてみたものの、まあ夕方に気が向いたらやってみよう、とその気になりはじめる。
お部屋も広々でちょっとしたキッチンもついていて、非常に快適。壁にはタンゴの名曲の歌詞らしきものが書かれていたり。

とりあえず近隣散策におでかけ。基本的に南米の大都市はあまり治安がよくないのかな?という前提で用心して旅しているので、人気のない通りにちょっとどきどき。こことここを通るのが安全だよ、とレセプションのCちゃんが教えてくれた道を忠実に通ってみる。ホテルがある地区はパレルモ・ソーホーというおしゃれエリアらしく、たしかに素敵なお店が点々としていていいかんじ。夜ごはんを食べようと思っているお店への導線を調べ、夜道をひとりで歩くのにどの通りが最適かを考える。進行方向を変え、今度は最寄駅方面に向かって歩き、同じく駅に行くにはどの通りがよいか、夜に歩くにはどう行けばよさそうかをリサーチ。合気道の道場や、李小龍の顔のストリートアートをみかけて和んだ。

ひとしきり歩き、カルフールでドリンクを仕入れて一旦ホテルに戻るとちょうどタンゴのレッスンに間に合う時間。Cちゃんが、先生が着いたらお部屋に電話しますね、と言ってくれたので部屋でごろごろして待機。
連絡をもらってレッスン場所に行ってみると、参加者は私ひとり。長身のマイルドなヴィンセント・ギャロみたいな先生に、まっっったくの初心者なので何卒よろしくお願いいたします、とあいさつしてレッスン開始。
まずは基本のウォークを習い、次いでポジション。体が密着しないポジションのときは相手の上腕部に手を添え、密着ポジションのときは相手の背中に手をまわす、というかんじ。
タンゴは相手の動きを読み取ってそれに合わせて動くことが肝要、とのことで音楽が流れるなか手をとりあい、片手は先生の胸に当てて目をつぶり、右に行きたいのか後ろに行きたいのか、相手の動きから感じ取って方向を合わせる練習。これが難しいのではと思いきや、意外なほどに相手の動きが読めて面白い。殿方の動きに注意を払い、相手の呼吸に合わせる。それって大切なことだわ!でもわたし最近そういうの忘れかけてた!と反省しつつ若干ときめきはじめる。
そして先生のリードで基本ステップを踏みながらダンス。右に行くも後ろに行くも全部おまかせで、ふたりの距離は常に一定にしなければならないのでひたすらついていく。「足元は見ないで。目をつぶって。リラックスして」等ささやかれながらダンス。
ここで、自分がドスンと恋に落ちる音が聞こえました。先生にではなく、街に。タンゴや、ブエノスアイレスで過ごしているその時間そのものに。
これはそうそうあるものではなく、一度目は10代最後の夏にはじめてアメリカに上陸し、JFKからの道中でタクシーの運転手さん(すごくいい人だった。1本だけ長い鼻毛が飛び出ていたのを今でも覚えている)が、「ほら、あれがマンハッタンだよ」と言われた先にあったワールドトレードセンターやその他ビル群を見た瞬間。
二度目は、はじめて香港に行き空港から二階建てバスに乗って青馬大橋を渡った瞬間に「あ、この街を好きになる」と、心がことりと動いたとき。
そして三度目がこの、そよそよと初夏の風が吹く薄暗い部屋にピアソラの音楽が流れるなか、ゆるいヴィンセント・ギャロみたいな男性とタンゴのステップを踏んでいた瞬間。このとき、ブエノスアイレスが、ニューヨークと香港とおなじくらい、わたしのなかでキタな、と思いました。
あと1時間レッスンが続いたら先生のことも思わず好きになってしまったかもしれないほど大人っぽい空間だったけれど、しばらくして1名飛び入りで参加してきたので、それまで漂っていたしっとりとした空気は去り、さわやかタンゴ教室に変身。
スペイン語も話せるアメリカ人女子がやってきたのだけど、今日は暑いね、というスペイン語をなんちゃらかんちゃらカリエンテ(英語でいうhot)、と言っていて、それだと”I’m horny’という意味になっちゃうよ、と先生から訂正されていてウケた。calienteの用法には気をつけよう。
基本ステップに続いてocho forwardという、八の字(ochoは数字の8)を描くようなステップを習ったんだけどこれもまた楽しい。難しいけれど。3か月くらい練習すれば上手くなるよ、と言われ、俄然やる気が芽生え始めた。
1曲ずつ交代で何度か踊り、最後は曲の途中で先生が何度か「チェンジ!」と叫び、そのたびにアメリカ人女子とわたしが入れ替わるという方式でフィナーレ。これ、呼びこまれるときはめっちゃ楽しいけれど、「チェンジ!」と言われて去るときはなかなかの屈辱感。殿方からあまり言われたくない言葉ですね。
1時間ちょっとくらいのレッスンだったんだけど、世界の見えかたががらりと変わった気がして、ふわふわとパレルモ・ソーホーの街中に繰り出す。アルゼンチンビーフのステーキをもりもり食らい、ビールをごくごく飲んで、ああ、わたし、この街をすごく好きになるな、と恋の予感に心を弾ませたものの、店の外をぼーっと見ていると、通行人に小銭をせびっていたりする人たちがいて、ちょっと怖いヨー、とおびえる。
店を出ると空には満月。暗くなった道をどきどきしつつ、月にみとれながら帰館。