Sting: 54th and 9th Tour @武道館 (June 8)



6年ぶりのスティング先生ご来訪。声ののびやかさと艶っぽさ、姿勢とスタイルのよさが衰え知らずの65歳。
スティングの歌は、一曲一曲に小説のような膨らみと濃度をいつも感じるのだけれど、その深さや奥行が年齢を重ねるごとにさらに味わいを増していることを今回つよく感じました。楽曲の素晴らしさにくわえ、先生の品格や知性、誠実さと相まって聴くものにやわらかく力強く物語を届けてくれる凛とした姿に尊敬がとまらない。

開演時間の18:30ぎりっぎりに客席の入り口にたどり着いたらもう先生がステージに出てきて”Heading South on the Great North Road”を歌いはじめたので、真っ暗な通路であたふたしつつ歌声に酔いしれる。ジョー・サムナーも出てきていきなりの親子共演。曲が終わるとジョーだけ残ってひとりオープニングアクト開始、という変則的なはじまりだった。

20歳くらいのとき、スティングにわたしと同年代の息子がいることを知り、彼と結婚したらスティングのことを「おとうさん」って呼べる!なんとか息子を探し出すのだ!と色めきたったことがあり、あれから幾星霜。やっと会えたね、ジョー。出会うのが遅すぎたね、ジョー。
Fiction Planeという彼のバンドの曲も、その歌声もなかなか好きなのです。お父さんとの声の相似っぷりが、十八世中村勘三郎勘九郎と同じレベルでDNAの強さを感じさせる。ジョー・サムナーの声はお父さんよりもじゃっかんカラフルで明るさが勝ってるかな。
とても良いシンガーなのでもっと爆発的にブレイクしてもよさそうなものなのだけど。お父さんもそう思ってこその今回のツアー帯同なのかな。といらんことを考えながら拝聴。ジョーの日本語でのMCが、ちゃんと基礎を勉強したひとっぽい流暢さでキュート。

本編は”Synchronicity II”からはじまり、スティング先生のロックスターなオーラ全開。コーラスの中にひとり、やたらお調子者な男子がいるなあと思ったら、メンバー紹介で「ワタシのムスコ、ジョー」と紹介されてた。また会えたね、ジョー。

今回の“Englishman in New York”のアレンジもすごく良かった。初めてアメリカに行ったとき、ちょっとしんどいときにウォークマンでこの歌を聞きながら”Be yourself, no matter what they say”と自分に言い聞かせるように歌いながらマンハッタンの五番街を歩いていた10代の自分を思い出して勝手にしみじみ。そして今でも”Be yourself, no matter what they say”というフレーズは自分を奮い立たせるのにときどき使うおまじないだよなあ、とまた勝手にしみじみ。

去年リリースされた久々のアルバム1曲目の”I Can’t Stop Thinking About You”を聴いたとき、スタンダードなスティング節と新しさが心地よく混ざっていてよいなあ、とすぐさま気に入ったので、生で聴かれてうれしかった。なかなか歌が作れない時期が続いて、その苦しみを歌詞にしたって何かの番組で話してましたね。こういうメタファーで歌の世界を構築するのが本当に上手なのが、先生の作品に文学性を感じる所以なのかな。

そして世界で一番だいすきな歌”Fields of Gold”を今回も歌ってくれたので天に召されそうだった。フラッシュなしならスマートフォンで写真撮ってもよいというルールなので、至福の瞬間をぎゅっと閉じ込めました。


“Shape of My Heart”は後半でジョーとともに歌う一幕。同ツアーのパリでの映像があった↓東京でもまさにこのまんまの光景でした。息子、顏ちかい。


今回のツアーはギターのドミニク・ミラーも息子さんと一緒だったのね。この映像↑でも「ミラーpere(父)、ミラーfils(息子)」ってスティングが最後にフランス語で紹介してる。あの美しい間奏の旋律を弾いたあと、親子でにっこり笑う姿が微笑ましい。
スティングはわたしの人生でもっとも長くコンスタントにライブに通っているアーティストで(初めて先生にお目にかかったのって1994年くらい?!歳月!!!)、ドミニク・ミラーも、五島に住んでる親戚のおじちゃんたちとかよりもずっと頻繁に目にしているなあ、と勝手に親しみを感じています。彼しかりスティングしかり、自分たちがまだ現役で動けるうちに、息子にその光を一緒に体感させたい、そして自分たちが築いてきたものをつなぎたい、と思って今回はこういう編成でライブをやっているのかなあ、といらんことを考えながら見ていました。

アンコールの”Every Breath You Take”の一体感も楽しく、最後は”Fragile”でしっとり〆るのもおなじみのかんじで、懐かしさと新しさが絶妙に織りなすスティング先生の世界を存分に堪能いたしました。
先生は何よりも魂が若々しくて、まだまだしばらくは現役で音楽を奏で続けてくれそうな気がする。また”Fields of Gold”を生で聴かれる日を楽しみに待っております。