八月納涼大歌舞伎 第三部 8/27千穐楽

  • お国と五平

夫が闇討ちに遭い、家臣の五平とともにあだ討ちに出てはや四年、いよいよ夫の仇と対峙して・・・というお話。これ、めちゃくちゃ面白かった!谷崎潤一郎の原作とのことだけど、たったひとつの場面で、3人の登場人物だけで、ほんの数十分のあいだに、男と女の深い濃い闇をぐぐっとむき出しにする会話の妙に圧倒された。
友之丞のキャラがすごい。江戸時代には「ストーカー」に類する単語はなかったのかな。恋焦がれた女の夫を卑怯な手段で殺し、あだ討ちで殺されるのは怖いからイヤだけど、好きな女の姿をひと目みたいがために、自分を殺すために旅する女の後をつけてまわるなんて、恋にどうしようもなく溺れた人間の究極の姿すぎる。彼がはなつあまりにも卑小な数々の泣き言に笑っちゃうんだけど、憎めない。あげくに自分という人間のいびつさを世の中のせいにする友之丞の言い分は、まさに現代の犯罪ファイルに登場しそうなリアリティだった。五平役の勘太郎さん(祝!勘九郎襲名決定!!)も、誠実な家臣でありつつ、男子の部分も隠せない、みたいなご愛嬌の部分をさらっと演じていてよかった。

なかむらかんざぶろうのスーパーイリューージョーーーン!!ああ、歌舞伎ってなんて面白いんだろう!歌舞伎役者って、観客を楽しませるためにこんなにも頑張ってくれるものなのか!と、あらためてつくづく思い知らされるエンターテイメントだった。

ひとつの演目の中でひとりの役者が何役も演じ分けるのはよくあることだけど、この演目はとにかく早変わりが命!姿を消して数秒後には別人格!花道の上でだって、くるりと回ったら別人に変身!中村屋・・・・恐ろしい子(白目)・・・。花道から退場したあとにすごい足音が聞こえて、「あ、走ってる走ってる」と客席が笑いさざめいたりするのもほほえましかった。それにしても着物の早変わりって、マジでどうやってるんだろう?舞台裏で、勘三郎さんから3メートルくらい離れたところで、こっそり見てみたい。

今の状態の歌舞伎座で納涼歌舞伎を見るのは今年が最後なのだと思うと、さびしい気持ち。さよなら公演のあいだ、歌舞伎座になるべく沢山通いたいなあと思った。