コクーン歌舞伎『東海道四谷怪談』 南番

◎演出のネタバレあります◎

ブラーーーヴォ!もー、何をどう書いたらいいか分からない。まず、歌舞伎を見に行ったはずなのに、スプラッシュマウンテンに乗った直後のごとく頭といわず足先といわずびしょ濡れになりながら、カーテンコールでスタンディングオベーションという自分の状況が面白すぎました。

一昨年の夏に歌舞伎座で同じ演目のほぼ同じ演出を見て怖かったのは覚えているけど、どの場面でどう怖かったかというのは存外忘れてしまうもので、漠然とただ、怖い芝居なんだよなあとビクビク。ありがたきことに今日も一番前の席だったので事前の恐怖心はただならぬものがあったのですが、どのエリアに座っても色んな仕掛けで怖いことが起きるのだよね結局。

しかし伊右衛門はほんっと非道い男だよ。お江戸のドS。橋之介の憎憎しさ100%の演技力にノックアウト。あと、今更ながらに気づいたのだけど、勘三郎さんが七五調の台詞を言う時って、言葉そのものが舞を舞っているよう。あれが才能というものなのかな。面相が変わった後のお岩の悔しさが現れる場面、怖いんだけど心にしみた。そして早代わりの見事さよ。

クライマックスの紙ふぶきのボタ雪が降る中での伊右衛門と与茂七(勘三郎)の立ち回りに深く深くうっとり。と油断していたら水の中に入り、戦っているようでどことなく小学生男子のようにはしゃいでいるように見える二人が確信犯的に水を撒き散らすのでした。

『夏祭〜』を見て以来ずっと憧れていた、前方数列の客が体験する水かぶりをついに経験することができて感激しました。劇場に入って自分の席(座布団)に行くとポツンとポンチョが置いてあるのがまずありえない。そして、ちょっぴりブレイクタイムにて水よけシートが支給され、笹野さんと七之助による水よけの特訓を受け準備万端。後半は怒涛の水かけ祭りになるのですが、舞台を見たいけど濡れたくないというアンビバレントな状況が楽しすぎてたまらない。カーテンコールではもう、ばしゃばしゃかけられる水になすがままになりながら爆笑するしかありませんでした。水、意外と暖かかった。

3時間ちょっとの間に恐怖と笑いとワクワクをたっぷり味わえる本当に幸せな娯楽空間でした。パルコとコクーン、ほんの数百メートル離れたところでそれぞれにちょっとないくらいエンターテイニングな歌舞伎がかかっていた先月の渋谷って奇跡の街だったのではないかしら。