Extremely Loud and Incredibly Close: A Novel

marik2006-09-24

洋書はたいがいジャケ買い(表紙買い?)が多いのだけど、この本もシックな表紙に惹かれて読み始めたら、なかなかどうしてabsorbingな小説でした。

9・11で父親を亡くした9歳の少年がある日、父が残したナゾの鍵を見つけ、それは一体どこの鍵なのかしらとニューヨーク中を探し回る話。この子がかなりおませ(フランス語をやたらと連発するのが微笑ましい)で想像力豊かで、その語り口にかなり惹きつけられるのだけれど、章によっては別の語り手がいきなり出てきたりして、全く脈絡がない(ように最初は思える)ことを語り始めるので、ちょっと混乱&話の流れが毎度ブツブツ途切れるのが若干フラストレーション。これはこれで重層的な味わいが出ているので良いのかな。少年の、一人称だと精一杯大人びてしっかりしているように思えるキャラクターを、別の語り手から俯瞰して見ると、やっぱりどこか脆い子どもだと感じさせるのも良かった。

9・11をフィクションの題材として受け入れられるほどの時間が経ったのだろうかと、ちょっと考えさせられもしました。そして、5年前に崩れ行くワールドトレードセンターを何度も何度もTVで見ながら感じた、「ああ、どんなに優れた芸術や映画や文学も、人間の悪意が引き起こしたこの強烈に悲しい出来事の前ではすべて力を失うなあ」という圧倒的な無力感を、ふと思い出したり。そんなことを考えながら、傷ついて混乱しているこの少年の姿を想像すると、どうにもこうにもやるせない気持ちに。

あと、視覚効果というかレイアウトが変わっているというか、写真がふんだんに使われていたり、一ページに文章が一行というページや、数ページにわたって白紙が続くという演出があったり、話の流れとしてはごく自然に受け止められる範囲なのだけど、えらく自由奔放に作った本だなー、という印象。小説自体が喪失感と痛みが胸に迫る、充分に優れた文章なのに、ちょっと気が散ってしまうので勿体ないような気もしました。とにかく新しい感じの書籍。