ティファニーで朝食を 

私だったらどのように訳すかしら、ということを始終考えながらまずは原文を読み(こういうとき、ちゃんと訳出するのが、真剣な学習者の本分なのだとは思うのだけれど)、それから村上訳を読んで、なるほどナルホドそういう風に持っていくのね、とすり合わせていくという贅沢な勉強ができて嬉しかった。瀧口訳の大仰さがチャーミングな日本語の印象が強いせいか、全体的に意外とあっさりしたシャープな訳だと思いました

この小説の魅力については大学時代に卒論で心ゆくまで語りたおした(The Bird without a Cageとかそういうかんじの青くさいタイトルで、カポーティがrootlessな出自をいかようにホリー・ゴライトリーに投影しているか、という論点を中心に綿々とつづった)し、折にふれ何度も読み返してきたので、今さらもうあらためて感想を抱くこともないかと思ったけれど、やーっぱり大好きな小説だなあと、あらためて実感。冴え渡った描写、ユーモアにくるまれた辛らつさ、孤独、自由、といったものがカポーティの職人芸的な美しい英語のリズムとぐっと来る言い回しで美しい世界を構築していて、読むたびに魅せられる大好きな文章。そういったものを村上さんのフィルターを通して読むことができるのは、両者のファンにとっては至福のひと時だった。

一緒に収録されている”A Christmas Memory”を泣かないで読んだことが一度も無いのだけど、新訳でもまんまと泣いてしまった。ずるいくらいに美しい、失われた無垢の時代の物語。