オリオン書房での岸本佐知子さんのトークイベントへ。初めて肉眼で拝見する、尊敬する翻訳家であり、最高に好みのタイプの随筆をお書きになる岸本さんは、お話しされるときの口調もワードセンスも発想も期待にたがわぬ魅力あふるる方でした。

最新刊の訳書であるリディア・デイヴィスの『話の終わり』の話題を中心に、都甲幸治さんとともに翻訳にまつわるあれこれをお話しされるのが楽しくて、おふたりの話をいつまでもずっと聞き続けていたかった。岸本さんが上品で淡々とした語り口で、さりげない毒やおもしろワードをするすると繰り出すので、始終ニヤニヤしっぱなしでした。自分の話をまわりが信じてくれない、という一例として、「キアヌが忠臣蔵のリメイク版に出るという話をだれも信じてくれない」という岸本さんのお話しが私はかなりツボだった。

イベントのあとはサイン会タイムまであって、想定外だったので嬉しい驚き。今ちょうど『話の終わり』を読んでいる途中でバッグのなかに入っていたので、わたしもサインをいただくことに。日にちを記入される際に年を誤って書かれるキュートなミスがあり、「じゃあ、この年にまたお会いしましょう」とおっしゃる岸本さんに、ついつい「わたし翻訳を勉強しているので、この年にぜひ!(同業者としてお会いしたいです)」とビッグマウスなことをうっかり言ってしまい、己の青臭さへの恥ずかしさで内心ぅわああぁぁとうずくまりたい気持ちになっていたら「あ、それなら」的なことをおっしゃいつつ、サインと一緒に描かれた富士山に、太陽の絵を追加してくださいました。天使!岸本さんはエンジェル!ありがとうございました。

ここ最近、もう文芸翻訳の道はこのあたりで諦めて、実務翻訳のスキルをもっと伸ばす方向に専念するべきではという迷いが生じていて、来年度も学校を続けるかどうかけっこう悩んでいたのだけど、今日の翻訳家トークを聞きながら「ああ、もっともっと海外の小説を読みたい!訳したい!」という気持ちがあらためてモリっと湧いてきたのと、岸本さんが描いてくださった富士山から登る太陽が心のなかにポッと強く灯ったような気がする。もうちょっとがんばってみようかな。